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太陽王子と月の姫

太陽王子と月の姫
これは西アジアに伝わるお話です。
その昔、地球がまだ平らで、大地が鉄の塊で出来ていた頃の物語‥。

世界にはまだ、太陽と月はありませんでした。
空にはただ、真っ黒の闇と、細やかな星々がゆらゆらと瞬いていました。
地上には、いっさい色がありませんでした。
やがて、神様はそんな地球に彩りを創ろうとして、「昼」と「夜」を創ろうとしました。
そのとき生まれたのが「太陽王子」と「月の姫」-。
-太陽王子は、昼を照らす。
使命は、とびっきりの明るさでした。
-月の姫は、夜を照らす。
使命は、まばゆい闇をゆらぐことでした。

2人は、表と裏。
太陽王子が昇る頃には、月の姫は空に消え‥
月の姫が輝く頃には、太陽王子は地に沈みました。
出逢うことはなくても、お互いは激しく焦がれました。
王子のとびっきりの明るさも‥
姫のまばゆい闇をゆらぐのも‥
永遠の時の中でし続けることは大変でした。

神様はいつの日か、そんな2人を逢わせようとした。
逢うことで、お互いの心を癒せると想いました。
しかし、太陽と月が共に過ごせば、地上の一切の彩りが消えてしまうだろう。
そこで、100年に一度だけ、たった1時間だけの「逢い引き」をさせようとした。
それが「皆既日食」です。
日食のわずか1時間、太陽と月は、会話をしているのです。
想いを溜め込んだ100年分の会話を‥。

日食の隙間から、陽光がほとばしるように見えるのは、太陽が月を強く抱きしめているからです。
日食を前後して、空気がダンスをするように流れるのは、月が太陽に唄を奏でるからです。
100年に一度の逢い引き‥
その瞬間、地球は2人を見つめることに照れて、赤く染まっています。

皆既日食を共に見ることが出来た者たちは、一生のキズナが生まれるといいます。
それは、太陽王子と月の姫が2人に乗り移るからでしょう。

PS.
でももしも見れなかったとしても、
昼も夜も、あなたを優しく包みます。
永遠のことわり。