EARTH REVIVAL 地球再生アイテムをお届け!

ラピュタ外伝 エピソード「ドーラ」

ラピュタ外伝 エピソード「ドーラ」
ラピュタ外伝 エピソード「ドーラ」

「王妃様になりたかった。
王妃様になれると思っていた。」
春の木漏れ日の下、ドーラはまどろみの中にいた。
天空の城での大活劇を終えて、手にしたお宝は全て金貨に換えた。
子供たちにも十分な報酬を渡し、飛行船も新たに造築しているところだ。
旅から旅へ渡り歩く「空賊(空の海賊)」達にとって、一つの冒険が終わったあとはつかの間の安らぎの時間。
そんな時間、ドーラは決まって自分自身を「寝かせる」。
一つの畑で収穫が終わると土をしばらく寝かせるように、豊かになるためにドーラは何もしない時間を何日も過ごす。
子供の頃、王妃様になりたかった頃の夢を見ていた。
なぜって、パレードで見た馬車の上の女性はキラキラと輝いていて、4歳の少女が見ても一瞬で虜になるほど綺麗だった。
しかし、ドーラの家は貧しかった。
父が乗っていた船は嵐に流され、母は女手一つで3人の子供を育て、過労で亡くなってしまったという。
末っ子のドーラが物心つく時には、そのような記憶はもう無かった。
物書きができる前から、叔母さんのパン屋さんで働くようになり、朝早く起きて夜遅くまで焼き場にいる間中、いつか2階の窓からほうきに乗って空に旅立つことを空想していた。

18歳の頃、パンを毎日買いに来ていた工場で働く青年に、秋祭りに誘われた。
「あの祭で気球の飛ぶ瞬間の仕組みを見たいけど、僕はあんまり目が良くないから、良かったら付いてきてくれないか?」
真っ黒な眼鏡をかけ、右手にはいつも本を抱えている、それが彼の研究熱心の証とも思えた。
20歳になると、その青年はパンを買いに来るだけでなく、休みの日には何かと理由を付けてドーラを色んな場所へ誘った。
「今度、図書館にあるダビンチの航空学の本、読みたいんだけど一人だと眠ってしまうかも知れないから、良かったら付いてきてくれないか?」
ドーラがおめかしをして一緒に図書館に行くと、彼は本を読むふりをしてこちらをチラチラ見ているだけだった。
だって、彼ったら本を逆さまにして持っていたんだから。

21歳の春祭りの日、彼に食事中にこう言われた。
「なあ、君ももう良い年だ。
いつまでも叔母さんのところで、お世話になっていることもないだろう?
そろそろ誰かと所帯を持ってみても良いのではないか?
う~~ん、そうだな、例えば今君の目の前でカレーを食べている男と、結婚してみるという手はどうだろう。」

二人は、海が見える二階建ての家の屋根裏部屋を借りて、一緒に暮らすようになった。
石畳、マロニエの並木、潮風が優しい、そこが二人の街だった。
20年間、子供はできなかった。
それでも夫婦仲は良く、街でも評判のオシドリぶりを見せていた。
ドーラが42歳の時、戦争が始まった。
きっかけは、「王様が好きな黄色のバラを隣国の王妃様に送ったが、王妃が好きなのは赤いバラだから送り返された。」という、馬鹿げたものだった。
その頃から、ドーラは政府に大きな疑問を持ち始め、やがて反抗するようになっていった。
贅沢な王族の暮らしに比べ、街には宿無しの者たちが増えていた。
マンホールチルドレン、家が無いからマンホールの中で暮らす子供たちの呼び名だ。
夫妻は、そんな家なき子を家に招き入れて暮らすようになった。
ドーラは思うようになった。
「誰かの贅沢の裏で、貧しく泣く者がいる世の中なら、その財宝を奪って分けてやれば良い。」

夫が航空学に詳しく、飛行機を造るのに長けていたから「空賊」になった。
子供たちも成長し、どんな仕事もできるようになった。
「ドーラ一家」。
それは、本物の家族になった。

~~~~~

浅い夢から覚めると、ドーラは沈む夕陽のオレンジに、目を細めていた。
もう60年は経つだろう、幼き頃の記憶。
そして、自分を重ねるように美しかった少女との出逢い。
天空の城からの帰還、あの時、空で別れた少年と少女は今頃どうしているだろう?
ドーラの脳裏に、飛行石に導かれた日々が蘇った。
その瞬間、ドーラの血が一瞬でたぎった。
「おい!お前達!いるのかい?」

ドーラが怒声を上げると、下の階にいた男達が一斉に駆け上がってきた。
髭を生やし肉付きの良いたくましい男も、声が高くお調子者の男も、色黒の機械いじりが上手な男も、惚れっぽく騙されやすい人の良い男も、皆ドーラの可愛い子供たち。
カールルイスよりも速くドーラの前に現われると、彼らは満面の笑顔だった。
「ママ、どうしたの?」
彼らは知っていた。
ママの怒声は、次なる冒険の始まりの合図だったから。

「やい!良いかい!よく聞きな。
手抜かりは無しだよ。」


続く。

PS.
駿夫氏へ。
良かったら、マジで映画化いかがでしょうか?












.